都バスから見る東京の地形:上60(大塚駅―上野公園)
春日駅前と都バス
都内には何箇所か、都営バスが大量に走る場所がある。一路線の本数が多い六本木通りや王子、葛西なども見どころだが、山手線内において、山手線の駅以外で特に都バスが集まるのが(市谷仲之町交差点や早稲田も捨てがたいが)、春日駅前だと思う。
春日駅前止まりのバスというのは無く、要はターミナルではないのだが、この近辺を走るバスはなぜかここを通る。それは需要という以上に、地形が大きく関係しているようだ。
ここには以下の4系統が集まる。特に都02系統は本数がかなり多く、時刻表を見ずに乗れるほどである。
しかしここで奇妙なことに気づく。上60系統が遠回りしているのだ。
上60以外の系統は、起終点に差こそあれ、全て春日通りを通り、主要路線・都02と並走している。一方、上60は、起終点は被っているにもかかわらず、春日通りには春日駅前の交差点でのみしか現れない。(バスは短距離の利用が多く、長距離需要は少ないとはいえ)わざわざ都02と重複する区間を別系統で結んでいるのだろうか。
これは筆者も疑問に思っていたが、実際に乗ってみるとその理由はすぐに分かった。地形である。
地形とバス路線
上の地図を見てほしい。東京の文京地区には、本郷台地などの台地が北から伸びており、台地と谷が入り組んでいる。
特に春日駅は、小石川台地と本郷台地と呼ばれる2つの台地の谷間に位置するものである。(注:中央下の円形の建物が東京ドームで、その直上の、駅と道路が交差して十字に見える地点が春日駅である)
ここで、都02系統のルートをざっくりと書き込んでみよう。
そう、上図を見ればわかる通り、都02系統は、上野〜湯島で本郷台を上り、春日駅前で谷を渡り、以降終点の大塚駅まで小石川台を走り切る、という形になっていたのだ。つまり、都02系統などの路線は基本的に「台地上を走る路線」であり、春日駅前の谷は回避できないから、仕方なく降りて来るという仕組みだったのだ。
(ちなみに、本郷台を回避しようとすると、神保町付近の駿河台下まで南下する必要がある)
一方、上60系統の経路も書き込んでみよう。
驚くことに、台地は東大農学部付近の最低限の区間しか通っていない。以降はずっと低地を走行している。つまり「低地を走る路線」として都02などと棲み分けているのだ。
おそらく、急な坂だらけの沿線地域では、台地上の春日通りがメインストリートで、バスが多く走っているとしても、低地の人々は坂を上って利用するのが困難なのだろう。そこで、低地の人々の足として、谷を巡るように走る上60系統が必要とされたのではないか……。このように考えを膨らませると、わくわくしてくる。
この系統が本当に地形的な面を配慮して作られたのか、歴史的な背景こそ知らないが、しかし地形が大きく影響していることは間違いない。バスの路線図一つとっても、そこからは背景にある東京の地形の姿が浮かび上がってくる。
皆さんもバスに乗ったときは地形を気にしてみてはいかがだろうか。
おまけ
都02と都02乙は台地上、上60は低地を走るということで一貫していたが、怪しい動きをしているのが上69である。大曲という低地のバス停から、わざわざ伝通院という台地上を経由して春日駅前に降りてくる。丸ノ内線に沿って進めば坂の上り下りが省けそうなところだが、この区間の需要がもしかしたらあるのだろうか。などと考えるのも面白い。