「~のだ」形が要請される状況について

韓国朝鮮語の勉強をしていると、次のような例文がありました。

T:서점에서 무슨 책을 삽니까?(書店で 何の 本を 買いますか?)
Y:역사 책을 삽니다. 리포트를 씁니다.(歴史(の) 本を 買います。レポートを 書きます。)

上の直訳の文章でも十分に文意は通じますが*1、しかしながら、「レポートを書きます」という情報が唐突に出てきたように感じはしませんでしょうか。
これをもう少し自然な日本語に訳すと、

T:書店で何の本を買いますか[買うのですか]?
Y:歴史の本を買います。レポートを書く{の/から/ため}です。

となるのではないでしょうか?

何が言いたいかというと、日本語において、ここは「~のだ」系の文章が要請されているのではないか、ということです。
T氏はY氏にあくまで本のジャンルだけを問うています。ですから、Y氏が「(歴史書を買うのは)レポートを書くためです」と述べたのは、T氏が要求した以上の情報ということになります。
補足情報を唐突に述べる場合、「~のだ」文が要求されるように思います。
以下に、とりあえず簡単に思いつく限り、「~のだ」文が要求される場合を挙げてみます。

1.質問に対する補足情報(理由など)を述べる場合

A. 書店で何の本を買うんですか?
    歴史の本です。レポートを書く{ん[の]/から/ため}です。

B. もう帰るんですか?
    はい。子どもが熱を出した{ん[の]/から/ため}です。

考察

「から」や「ため」とも代替可能な場合が多そうです。

2.疑問文の場合

行き先を尋ねる場合

C-1    これからどこへ行くんですか?
C-2    これからどこへ行きますか?
C-3    これからどこへ行きましょうか?

行き先を尋ねる場合、以下の二通りが考えられます。
①どこかへ行こうとする相手に対して、そこへは行かない話者が行き先を尋ねる場合
②話者と相手がこれから一緒に行く先について、相手だけが知っている場合
②話者と相手がこれから一緒に行く先について、決まっていない場合

①の場合では、C-1が自然です。②の場合は、C-2が使えますが、C-1も使えそうです。③の場合はC-3が自然ですが、C-2も十分自然に思えます。C-1は未定だと知れているのに訊いてくるのか、という印象があり、不適切でしょう。

料理を作る場合

D-1    今晩は何を作るんですか?
D-2    今晩は何を作りますか?
D-3    今晩は何を作りましょうか?

料理を作ることについては、以下の三通りが考えられます。
①話者と相手が二人で料理を作る場合
②話者が相手に料理を作る場合
③相手が料理を作る場合

①の場合、D-1だと「相手が主導して料理をし、話者は手伝う」イメージです。D-2とD-3は自然なイメージです。
②の場合、D-1だと「相手に命じられて話者が料理させられる」イメージです。D-2はやや不自然かもしれません。D-3がいちばん自然でしょう。
③の場合、D-1が自然です。D-2はやや不自然かもしれませんが文意は通じます。D-3はかなり不自然です。

考察

もしかすると、相手と自分の動作の関係によって、文末の形は変化してくるかもしれません。そしてその中で、「のだ」が要求される場合も少なからずありそうです。

また、「これからどこへ行けばいいですか?」などの文型を導入すると、上記には挙げなかった人間関係が描けそうです。

 

この記事の続きはまた書こうと思います。あくまで「のだ」だけが要求され、「から/ため」では代替できない場合もありますので、その点も掘り下げてみたいですね。

以下のサイトには、「相手と自分の持っている情報の差」について言及していました。なるほど、先程自分と相手の挙動によって簡単に分類したのも、どうやら関係がありそうです。

kotobaken.jp

 

 

*1:歴史と本の間に「の」が省略されているのは、たとえば日本語で「歴史書」というのと同じですから、この差は言語間の感覚の差に過ぎないでしょう