日本語不規則動詞を考える【動詞接続形試案-3】
前回に引き続き、不規則動詞を考えてみる。
前回までのまとめ
動詞の分類案
子音語幹動詞(例:「読む」)
語幹:yom-
yom-a-nai / yom-i-masu / yom-u(-koto) / yom-eba / yom-e
母音語幹動詞(例:「食べる」)
語幹:tabe-
tabe-nai / tabe-masu / tabe-r-u / tabe-r-eba / tabe-r-o
不規則動詞「する」
語幹:s- / su-
s-i-nai / s-i-masu / s-i-ro
su-r-u(-koto) / su-r-eba
不規則動詞「来る」
語幹:k- / ku- / ko-
k-i-masu
ku-r-u / ku-r-eba
ko-nai / ko-i
動詞の接続形
母音接続形:子音語幹動詞は-a-, -i-を補う。母音語幹動詞は語幹に接続。
子音接続形:子音語幹動詞は語幹に接続。母音語幹動詞は-r-を補う。
大前提
前回まで述べていなかったが、動詞の接続形を考える前提として、次のような原則を想定して考えていた。
- (接続部で)子音と母音は交互に連続する
つまり、これはこう言いかえられる。「ア行は登場しない」と。
この子音母音交互の原則に則るから、母音語幹動詞の子音接続には子音-rが補われるし、子音語幹動詞の母音接続には母音が補われるわけだ。
えっ!? ア行ってあるじゃん? と思った方。これから説明します。
不規則動詞を考える
では、ここから不規則動詞を考える。まずは、規則動詞であるが、語幹がwで終わる動詞(所謂「ワア行五段動詞」である)。
子音語幹動詞(-w)(←ワア行五段動詞)
ワア行五段動詞とは、「買う」など、「未然形」ではワ行になる(買わない)ものの、他の「活用形」はア行で普通の五段活用をするものである。「活用表」は、(ワ、オ/イ/ウ/ウ/エ/エ)。ちなみに、ア行五段活用動詞は存在しない。
これを活用表に当てはめてみようとすると、まず子音語幹動詞であるにも関わらず、子音語幹でないという問題が出てくる。また、未然形でのみwが登場するということだ。
ここで次のようにルールを作る。
- "w"で終わる語幹とし、-(w)と表記する。
- 否定"-nai"以外に接続する場合は、母音が連続することになるが、発音しない(w)を想定するため、子音と母音が交互になるという原則を破らない。
これで原則は満たしたことになる。もともとこのワア行五段動詞とは、ハ行四段動詞に由来するもので、文中の(パピプペポ→)ハヒフヘホが、音変化でワイウエになったものなので、妥当な処理だろう。
ちなみに、ワア行五段動詞は(ワ、オ/イ/ウ/ウ/エ/エ)に「オ」があるが、これは第一回で述べた推量の「う」のための活用形であるが、これは「買はむ」→「買はう」→「買おう」という流れで、この「オ」は音便由来のア行で、ハ行(ワ行)由来の他のイ・ウ・エとはまた別物なので、この点からワア行五段動詞という呼称が苦しいように思う。
不規則動詞「する」(←サ行変格活用動詞)
日本語不規則動詞の双璧をなす「来る」「する」だが、こっちのほうが少々シンプルなように思える。
さて、接続の変化としては、(sinai, simasu, suru(-koto), sureba, siroまたはseyo)なのだが、これをうまい具合に規則動詞の母音語幹・子音語幹に当てはめたいものである。試行錯誤の結果、語幹を3種類用意すれば解決しそうだ。
不規則動詞「する」
語幹:s- / si- / sur-
s-(分類上は子音語幹動詞の子音接続形。受身-areru, 使役-aseruが接続する形)
si-nai / si-masu / si-ro (分類上は母音語幹動詞)
sur-u(-koto) / su-r-eba(分類上は子音語幹動詞)
古語においては母音語幹のse-系統があって、se-zu, se-yoなどの形があったと言えるのだが、この通りサ変動詞の「する」も、時代が下るにつれて一段動詞(子音語幹動詞)に近づきつつあるのかもしれない。そういえば、se-系統が消えた一方でs-系統が登場しているが、「される」「させる」あたりの形はいつごろ出てきたのだろう。今度調べてみよう。
不規則動詞「来る」(←カ行変格活用動詞)
「する」は基本的に2系統、受身使役のためにs-の形で解釈できたが、「来る」のほうはもう少々厄介である。
不規則動詞「来る」
語幹:ki- / kur- / ko-
ki-masu(分類上は母音語幹動詞)
kur-u(-koto) / kur-eba (分類上は子音語幹動詞)
ko-nai / ko-i (強いて言うなれば母音語幹)
この、ko-系統が非常に厄介である。母音語幹にも-oで終わるものはない。しかも、命令形にはko-iが出現している。もともと母音語幹には-yoを付すと命令形になっていて、古語では「来よ」ko-yoが命令形として規則通りになっていた。(「来(こ)」も命令形として存在したが。)恐らく-o終わりなのが影響して、-yoから-roに入れ替わるタイミングでko-yoのyだけ残ってiになったのかな、などと勝手な妄想をしてみる。しかしko-iの命令形とは実に唯一無二の存在で厄介にもほどがある。が、不規則こそ面白い、というのもまた真実。
終わりに
試案? 私案? もだんだん進んできた。無理やりの説明で、古典文法とのリンクを損ねてしまうところも多いが、しかし口語文法は「美しく活用する」古典文法に合わせすぎて歪められているきらいもあるので、少しくらいは良いかな、と。
ちなみに、ko-系統を母音語幹にし、s-を子音語幹にしたのは、受身"-arer-"と使役"-aser-" が接続するときの形が関わってくる。この件はまた追って。
適当に思いつきを走り書き程度にまとめているので、何か間違いや提案などあれば、ぜひお教えいただければと思います。