第一回予想問題 国語(古文)
問題文の画像は下部にあります。画像では都合上ア~キの記号を略しています。
第二問
次の文章は『とはずがたり』の一節である。作者は大納言の娘で幼い時から後深草院の御所に出入りし可愛がられていたが、ある夜、邸を訪れた院に関係を結ぶよう迫られると、作者は思いがけない展開に驚きかつ悲しみ、院を拒む。以下はその翌朝、院が帰る場面から始まる部分である。これを読んで、次の問に答えよ。
夜もすがら、終に一言葉の御返事だに申さで、明けぬる音して、「還御は今朝にてはあるまじきにや」など言ふ音すれば、「ことあり顔なる朝帰りかな」とひとりごち給ひて、起き出で給ふとて、「(ア)あさましく思はずなるもてなしこそ、振分髪の昔の契りも、甲斐なき心地すれ。いたく人目あやしからぬやうにもてなしてこそ、よかるべけれ。あまりに埋もれたらば、人いかが思はん」など、(イ)かつは恨みまた慰み給へども、終に答へ申さざりしかば、「あな。力なのさまや」とて起き給ひて、御直衣など召して、「御車寄せよ」など言へば、大納言の音して、「御粥参らせらるるにや」と聞くも、また見るまじき人のやうに、昨日は恋しき心地ぞする。
還御なりぬと聞けども、同じさまにてひきかづきて寝たるに、いつの程にか、「御文」と言ふもあさまし。大納言の北の方、尼上など来て、「いかに。などか起きぬ」など言ふも悲しければ、「夜より心地わびしくて」と言へば、「新枕の名残か」など人思ひたるさまもわびしきに、この御文を持ち騒げども、誰かは見ん。「(ウ)御使立ちわづらふ。いかにいかに」と言ひわびて、「大納言に申せ」など言ふも耐へがたきに、「心地わぶらんは」とておはしたり。この御文を持て騒ぐに、「いかなる言ふ甲斐なさぞ。御返事はまだ申さじにや」とて、繰る音す。
あまた年さすがに慣れし小夜衣重ねぬ袖に残る移り香
紫の薄様に書かれたり。この御歌を見て面々に、「(エ)このごろの若き人には違ひたり」など言ふ。いとむつかしくて起きもあがらぬに、(オ)「さのみ宣旨書きも、なかなか便なかりぬべし」など言ひわびて、御使の禄などばかりにて、「言ふ甲斐なく、同じさまにて臥して侍るほどに、かかるかしこき御文をもいまだ見侍らで」などや申されけん。
昼つ方、思ひもよらぬ人の文あり。
「今よりや思ひ消えなん一方に煙の末のなびき果てなば
これまでこそ、(カ)つれなき命もながらへて侍りつれ。今は何事をか」などあり。「かかる心の跡のなきまで」とだみつけにしたる、縹の薄様に書きたり。「忍ぶの山の」とある所をいささか破りて、
知られじな思ひ乱れて夕煙(キ)なびきもやらぬ下の心は
とばかり書きて遣ししかども、とは何事ぞと、われながらおぼえ侍りき。
〔注〕
○還御——天皇・上皇などの貴人が外出先から居所に帰還すること。
○御粥参らせらるるにや——(朝食の)御粥は召し上がるのか。
○いつの程にか——早く。後朝の文は早く来るほど良いものとされた。
○尼上——大納言の母。作者の祖母。
○宣旨書き——代筆。
○思ひもよらぬ人——雪の曙。作者の初恋の人。
○かかる心の跡のなきまで——「消えねただしのぶの山の峰の雲かかる心のあともなきまで」を踏まえる。
○だみつけにしたる——この古歌の情景を彩色で描いてあるということ。
○下の心——本心。
○とは何事ぞ——これはどうしたことかと。作者が自身の心の動きを不審に思っている表現。
設 問
㈠傍線部ア・ウ・カを現代語訳せよ。
㈡「かつは恨みまた慰み給へども」(傍線部イ)とあるが、院はなぜこう思ったのか、説明せよ。
㈢「このごろの若き人には違ひたり」(傍線部エ)とはどういうことか、説明せよ。
㈣「『さのみ宣旨書きも、なかなか便なかりぬべし』など言ひわびて」(傍線部オ)を、言葉を補い現代語訳せよ。
㈤「なびきもやらぬ下の心は」(傍線部キ)とあるが、作者は何に心が揺れているのか、説明せよ。
問題文(画像)
単語リスト
- あさまし
- ひとりごつ
- 思はずなり
- 振分髪
- かつは
- あな
- わぶ
- わづらふ
- むつかし
- 便なし
- かしこし
- つれなし
補遺
『新潮日本古典集成(第二十回)とはずがたり』によります。
好きなのでささっと問題にしてみました。分量としても難易度としても同程度のものではないでしょうか。設問と注釈の拙さはご容赦ください。
作:驟雨