「新型コロナウイルス感染症」の発音について

こんばんは。最近は閑なので「コロナ罹(かか)りたくないな~」ということを考えています。

街へ出ると、「新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から……」などと、至る所で自動放送が流れています。が、どうもこの自動放送が気になる(例えば、東京メトロの駅構内の放送)。

というのも、例えば発音上の高くなる部分をカタカナ、それ以外をひらがなで表すとすると、

「しん/カ゜タ\こ/ロナウイ\るす・カンセンショウカクダイボウ\し」と言うのです。

わかりやすく言えば「新型コロナウイルス感染症拡大防止」と、まるで二語のようになっているのです。

 

そもそも、政府が定めたものでは、

病名:「新型コロナウイルス感染症」「COVID-19」

ウイルス名:「SARSコロナウイルス2」「SARS-Cov-2」

となっています。ですから、「新型コロナウイルス/感染症」(し)という二語構成の発音ではなく、「新型コロナウイルス感染症」(しん/カ゜タ\こ/ロナウイルスカンセ\んしょう)と、高い部分を続けて一語で発音するべきではないか、と第一に思うのです。

 

ただし、そうは簡単に行きません。そもそも、複合名詞だからと言って必ず一体化した発音になるとは限りません。NHK『ことばの研究』2017年1月10日より田中伊式「NHKアクセント辞典 新時代への改訂⑦ 複合名詞の発音とアクセント~『新辞典』のねらいとアクセント規則~」では、例として「行方不明」と「消息不明」が挙げられています。複合化して元のそれぞれのアクセントから変化したのが「行方不明」、もともとのアクセント通りで複合化していないのが「消息不明」とのことです。試しに「行方」「消息」「不明」と発音してみて、比べてみてください。

ですから、「新型コロナウイルス感染症」は四語構成ですし、これが必ず複合化するものだとは断言しきれません。話者ごとの、言葉としての一体感の感じ方の差などによって、「新型/コロナウイルス/感染症」「新型コロナウイルス/感染症」のように三語や二語で発音されることは、十分ありえます。実際、ニュースでも「新型コロナウイルス感染症」のように、スまでで一旦下がりきって二語として発音する例が多い気がします。

 

では、先程の「新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から……」は、何が違和感の原因なのでしょうか。おそらく、「感染症拡大防止」を複合化して発音(か/ンセンショウカクダイボウ\し)しているからです。つまり、本来は「新型コロナウイルス感染症」+「拡大防止」なはずが、実際は「新型コロナウイルス」+「感染症拡大防止」で発音されているのが気持ち悪いのです。

感染症拡大防止」がまるで一語のスローガンのように、すんなり受け入れやすい言葉であるのはわかりますが、しかし政府も定めた通り、感染症名としては「新型コロナウイルス感染症」で、正式には「新型コロナウイルス」というウイルスは存在しません(というか、呼称として正確ではありません)し、発音としては違和感があると言わざるを得ないでしょう。

 

しかし、ここでもう一つ疑問が出てきます。いくら疫学に疎いからと言っても、『感染症拡大防止』を一語認識するわけはないだろう、ということです。だって「感染症拡大防止」が一語なら、それより前の「新型コロナウイルス」が置き去りになってしまうからです。

そこで、もう一度先程のNHKの資料を読んでみます。すると、「後部要素が5拍以上の場合 基本的に後部保存型(もとの語のアクセントのまま変わらない)」と書いてあるではありませんか!

どういうことかというと、「委員会」「文化財」などの長い語が後ろにくっつく時、後ろの語のアクセント核は保持される(高く上がる部分は概ね変化しない)ということです。であれば、「感染症」(カンセンショウ)+「拡大防止」(カクダイボウ\し)で複合化させたとしても、「カンセンショウカクダイボウ\し」となり、発音が複合前と複合後で似たものになるのです。

 

これを整理すると、恐らく、「感染症拡大防止」で一語に聞こえてしまうのはイントネーションの観点からするとあり得ることで、誤解の種となっているのはあくまで「間」の取り方にあるのではないか、と言えます。「新型コロナウイルス感染症 拡大防止の観点から……」と、しっかり間を取ればこのような誤解も減ることと思います。みなさんも放送を耳にしたときはぜひ確認してみてください。

 

※意見や誤り等ありましたらお気軽にお声掛けくださると幸いです。